汚レ唄
楽屋に戻ると、これ見よがしに机の上に雑誌が置かれていた。
犯人は分かってる。
私たちのマネージャー、岩井ちゃんだ。
小柄な独身三十路街道まっしぐら中の岩井ちゃん。
すごく優しくて、気配り上手で、お嫁さんにしたいくらい料理も美味しいのに、
なぜか女運がないおっさんだ。
雑誌を嬉しそうにペラペラとめくる拓斗と則彦を見て、自然に溜息が出てきた。
そんな時、ドアの向こうから、バタバタと豪快な足音が聞こえた。
廊下は静かで、足音だけが無駄によく響く。
その足音がやんだと思った瞬間、今度は勢いよく楽屋のドアが開かれた。
「お疲れ様ぁ〜。あんたたち、すごく良かったわよぉ〜。また腕上げたんじゃない?」
……この特徴のあるオネエ言葉を話すのが、岩井ちゃん。
短く揃えられた前髪が走ってきたせいか、あらぬ方向へと散乱している。
「そんなに息切らせて走ってこなくても、私たちはここにいるって」
小柄な彼を見下ろしながら、肩で息を繰り返す肩にポンポンっと優しく叩く。