汚レ唄




楽屋に戻ると、これ見よがしに机の上に雑誌が置かれていた。


犯人は分かってる。




私たちのマネージャー、岩井ちゃんだ。



小柄な独身三十路街道まっしぐら中の岩井ちゃん。


すごく優しくて、気配り上手で、お嫁さんにしたいくらい料理も美味しいのに、






なぜか女運がないおっさんだ。






雑誌を嬉しそうにペラペラとめくる拓斗と則彦を見て、自然に溜息が出てきた。



そんな時、ドアの向こうから、バタバタと豪快な足音が聞こえた。


廊下は静かで、足音だけが無駄によく響く。



その足音がやんだと思った瞬間、今度は勢いよく楽屋のドアが開かれた。






「お疲れ様ぁ〜。あんたたち、すごく良かったわよぉ〜。また腕上げたんじゃない?」



……この特徴のあるオネエ言葉を話すのが、岩井ちゃん。



短く揃えられた前髪が走ってきたせいか、あらぬ方向へと散乱している。



「そんなに息切らせて走ってこなくても、私たちはここにいるって」


小柄な彼を見下ろしながら、肩で息を繰り返す肩にポンポンっと優しく叩く。



< 263 / 665 >

この作品をシェア

pagetop