汚レ唄
すると、心外だとでも言いたげな表情を浮かべ、岩井ちゃんは私の方を睨みつけてきた。
「で・もっ!!あんたは全然ダメ!!!
気持ちが入ってなかった。あんな歌、誰の心にも届きはしないわよ」
あ〜……なるほど、怒ってるのは、今日の歌の出来か。
そりゃ、そうだよね。
いつもの岩井ちゃんなら、肩を叩いたくらいじゃ怒らない。
岩井ちゃんが怒るのはいつだって、歌のこと。
「うん……岩井ちゃん、ごめんなさい」
「あんたたちはプロなんだからね!
そのテクニックで……そのセンスで……その声で暮らしているんだから。
半端なものは誰の心にも響きはしないの。
たとえ、疲れていたとしても、たとえ、肉親が亡くなったとしても、それを隠して歌い続けなくちゃいけないんだからね。
しっかりしなさい」
「はぁ〜い」
時にお嫁さん、時にお母さん。
そして、時にお姉さんにもなれる岩井ちゃん。
そんな優しくて厳しい、岩井ちゃんのことが私たちは大好きだった。