汚レ唄
羽香と俺は実は同じ職場。
少し名の知れた美容室で美容師として働いている。
別れても顔を合わせる苦痛なんてものは全くない。
それは多分付き合ってるときでも友達同士のような付き合い方だったからだろうか。
それとも、麻緋の事で一杯だから??
……っと、とにかく、今はお客様だ。
俺は、目の前の柔らかめの細い髪を再び手に取りカットしだした。
ふと目に入ったのは、お客様の読んでいる雑誌。
そう、それは『MUSIC EVER』という音楽雑誌。
ページ一面に広がる黒。
その中に鋭い目つきでコチラを威嚇するような視線を向ける麻緋……じゃなくてTSUBASA。
ドクリとした。
彼女の視線が全身を刺すようで……。
心臓をギュッと掴まれた様な感覚。
足の先から熱い熱い何かが沸騰して、それが徐々に上に上がってくるような感覚。
どんな姿をしていても、どんな化粧をしていても、お前に惹きつけられていく。
と同時に沸き起こる昨夜の罪悪感。
こんなんで仕事に集中しろだなんて拷問だ。