汚レ唄
でも、ここでやらなきゃカリスマだとか言えない訳で……。
2、3度深く息を吸い、目の前の髪の毛に集中した。
極力雑誌に目をやらないように気をつけて。
切りすぎた髪に合わせて全体の長さを合わせる。
少し短くなってしまったけれど全体的に軽い感じにしたので、短くなってもあまり違和感がないように思える。
最後にお客様に鏡でチェックをしてもらい、「これでよろしいですか?」と訊ねる。
すると、お客様はたいてい「わぁ、ありがとうございます」と喜んでくれて、髪型に満足して帰ってくれる。
今回も例外ではなかった。
お客様はMUSIC EVERを元の置いてあった場所に戻すと、ゆっくりと立ち上がり歩きだした。
それを合図に俺もお客様を外までエスコートしていく。
ドアを開け、「ありがとうございました」と頭を下げてお客様が見えなくなるまで見送った。
お客様の喜ぶ顔……
それは、この仕事をしていて良かったと思える瞬間だった。
この幸せを教えてくれたのはやっぱりお前だったな、麻緋。