汚レ唄


「なにか……ですか」


俺には“なにか”がわかる。


きっと、あの事だ。






俺は、麻緋と繋がってしまった。




麻緋のことだ。


抱え込んでしまって、胃が痛くなるほど悩んでいるに違いない。





だから……普段は飲まない酒だって飲みたくなったんじゃないだろうか。



俺は、何も言えない麻緋に甘えているだけなんだ。



「なぁ、蒼。俺さ……」

「なんですか?」


「……いや、なんでもねぇ」





再び目線を麻緋に向けて、拓斗さんは手の甲で麻緋の頬を撫でた。



それだけのことなのに、なぜだろう。



足元から力が抜けていくような、胸の痛み。


それと同時に胸の奥から湧き上がる嫉妬の渦。





何考えてんだ、俺。


拓斗さんと麻緋は、バンドのメンバー。


そこに恋も愛もないはずなのに……。


なのに、なんでこんなに不安なんだろう。


拓斗さんに麻緋を取られてしまうんじゃないかって、不安になってる。





だって拓斗さんの視線はずっと麻緋に向いたままだから。
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