汚レ唄
「蒼!!」
「麻緋〜、お前歩くの遅い!!」
名前を呼ぶと嬉しそうに蒼が振り返る。
だけど、途端に偉そうに文句を言い出す。
「私、別に一緒に帰るなんて言ってないし、あんたが勝手に言い出したんでしょ」
本当、勝手に。
勝手に言い出して、勝手に歩き出す。
「でも、来てくれたし。
麻緋は優しいから、俺がどんなにワガママ言っても聞いてくれるでしょ?」
「…………」
大きな背中を丸めて、無理矢理上目遣いに見てくる。
そんな視線を浴びると何でも許してしまいたくなる。
なんて奴。
昔よりも質が悪くなってる。
「別に、あんたがカバン持ってっちゃったからでしょ?!」
そんな視線に耐えられなくて、体中が熱くなって、私はプイっと視線をそらした。
弟相手に何してんだか。
「あっ!!そっか。どうりで、なんか重いと思ったら……麻緋のカバン持ってたからだった」
へへへへとだらしなく笑う蒼に、また私の視線は吸い寄せられていく。
「とりあえず、帰ろっか」
蒼の大きな手の平がこちらに向かって差し出された。