汚レ唄
そのまま、ピアノの音に誘われるように、音のする方へと歩いていく。
ワクワク、ドキドキ……
まるで探検をしているよう。
宝物探しをしているように、この先に待っているモノを期待しつつ向かった。
音の出所は、ピアノのある音楽室だった。
「誰が弾いてるんだろう」
今はもう、塾の時間だとか、告白されたことなんか頭にはなかった。
ただただ、このピアノの音だけしか考えられなかった。
音楽室の扉を開けると、今まで流れていた心地よい音が止んでしまった。
それだけなのに、何かを壊したようで胸が締め付けられた。
この曲を最後まで聴きたかったんだ。
私はただ、ずっと、このピアノを聴いていたかったんだと気付いた。
「誰ですか?」
その声はピアノと同じ。
少し低めの声だけど、混じりけなく綺麗に澄んだ声だった。
そして、私はただ……その場に突っ立ってることしか出来なくなった。
金縛りに似た感覚。
何かに縛られてうまく話せない。
上手く動けない。
電気が走ったように、彼の瞳を見つめることしか出来なかった。