汚レ唄


「う〜ん……たしかにそういうのもあるかもしんない」



だけど、なんでか
「雅紀くんのピアノってずっと聴いていたくなるんだよね。
一家に1人、雅紀君がいたらいいのにね」

「麻緋サン。人を電化製品みたいに言うのやめてくれます?」

「へへへ。ごめん。
……じゃあさ、なんか別の曲弾いて。なんでもいいから」




時計を見た。

もうすぐ帰らないといけない。



「お任せ?」

「お任せで」




━━━……ポーーン

━━━……ポーーン




静かな音楽室に響く1つのピアノ音。

それはとてもゆっくり、1つの音を確かめるかのようだった。




━━━……ポーン

━━━……ポーン




息をゆっくり吸い、ゆっくりと吐き出す雅紀くん。


いつも雅紀君はピアノを弾く前に深呼吸を繰り返す。





━━━……ポーン

━━━………ポーン……



1つの音をゆっくりと弾くのは、その間に曲の中に入っていくからだと言っていた。


曲の中に入り込んでいくからこそ、真実の音が出るんだって瞳をキラキラさせながらキミは言っていた。
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