汚レ唄



━━━……ポーーン

━━━……ポーーーーン…





長い指先がゆっくりと白い鍵盤に吸い込まれていく。


息をゆっくりと吸い込むと、ゆっくりと目を閉じた。




そして目を開けた次の瞬間。



静かだった音楽室は、美しいメロディに包まれる。




「……この曲は」

そう、この曲は、少し昔に流行ったラブバラードだった。



この曲を聴かない日がなかったというほどにテレビでよく流れていたこの曲は、愛してるも好きという言葉もないけれど、

だけど全身に響くラブソング。




愛してるなんて言葉がなくても伝わるラブメッセージがこめられていた。


だけど、歌詞のないこのピアノだけの音は……なんだか切なくて、とても美しい音だった。




綺麗な綺麗な愛のメロディだった。






「♪♪♪〜」

それは自然に出た歌声だった。



びっくりしたように目を見開いた彼は、ニッコリと微笑み更に力を込めて演奏をする。


私は、ただただ歌いたくて、歌いたくて……歌いたくてたまらなかった。
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