汚レ唄
「あっ」
雅紀くんはいきなりピアノを弾くのをやめた。
「どうしたの?」
「……もう、時間だね」
私は塾の時間。
雅紀君は週に1度通っているピアノの時間。
「……そうだね」
このままがいい。
ずっと……ずっとこのままでいたい。
なのに……時間はみんな平等に流れていく。
「また来週、ここで」
雅紀君は知らないだろうけれど、サッカー部で練習している雅紀君を何度も何度も見てきたんだよ。
雅紀君は気付いていないと思うけれど、ピアノを弾いているときの儚さなんて微塵にも感じない、健康男児そのものだったんだ。
照りつける太陽も味方につけて、爽やかに笑うと八重歯がニョキッとでて……元気よくって、一生懸命ボールを追いかける君の姿が……とても眩しかった。
雅紀君の走る姿を見ていたら、なんだか元気になれるんだ。
だから、また“来週”なんかじゃないんだよ。
また……“明日”。