汚レ唄
世間が歌姫と呼ぶ彼女の歌詞は、私には心を痛みつけるものでしかなかった。
でも、どこかその痛みが自分の中でストッパーになっているような気がして、ついつい聴いてしまう。
彼女は私の中でもやっぱり歌姫だったのだ。
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「カラオケ行く約束覚えてる?」
ショートホームルームが終わり、ようやく今日1日が終わったと思ったとき、前の席に座る那智が振り返った。
「おっ、覚えてるよ!」
……忘れてた。
昨日の夜、那智からメールが来てカラオケ行く約束していたんだった。
「……忘れてたでしょ?」
「……えへ」
那智は深く深い溜息を吐くと、
「まぁ、いいわ。早く行かないと待たせちゃうし」
と意味不明なことを言い、左手にカバン、右手に私の手首を掴み走って教室を出た。
「ちょっ、ちょっと!他にも誰かと行くの?」
そんな話、昨日のメールでは聞いてない。
足早に階段を下りる那智の背中に声をかけるが返事はない。
グイグイ引っ張られ、時々体勢を崩すが、なんとか耐え、必死に那智についていく。