汚レ唄
いつものようにホームに誰もいなくなったのを確認してから改札へ向かう階段を下りる。
でないと、下を向いて歩く僕に人ごみは厳しすぎるから。
遠のいていく女の声に安堵しつつ、階段を下りるけど、メガネのせいで視界が揺れ不安定になる。
1段1段降りるたびに視界がグラグラグラグラ……。
手すりを持ちながら降りないと転げ落ちてしまいそうだ。
……あと少しで階段が終わる。
そんな時だった。
カシャーン
音がしたと思うと、一気にぼやけた視界からハッキリと物が見えるように……白黒の世界からカラフルな色が蘇ってきた。
足元に転がる自分のメガネを見て、それはメガネが落ちたからなのだとだいぶ経ってからわかった。
それは久々の外の色。
ザーザーと幾筋にも流れる雨粒の音が静かに耳を刺激する。
何か音楽を奏でているようにザーザー……ザーザーと。
階段を下りてすぐ右側は透明なガラス張りになっていて外の様子がよくわかるようになっている。
つまり、今の僕の場所からでも外が丸見えだった。