汚レ唄
雅紀君の顔が見えない。
逆光で見ることができない。
「その時は……言いたいことがあるから」
雅紀君はそう言うと、この雰囲気に耐えられなくなったのかさっさと音楽室から出て行ってしまった。
でも、自然と悲しみなんてものはなかった。
また会える。そう思うと……明日さえも楽しみになれた。
「あれ?」
なんだろう?
ピアノの椅子に小さなブーケが置かれていた。
それは、ピンクや黄色、白などの可愛い花の集まったブーケで、すぐ傍には手書きと思える楽譜とカセットテープが置かれていた。
楽譜の曲名には"朝日"と書かれていて、思わず笑ってしまった。
「聞く前から名前付けてんじゃん」
これは雅紀君からの卒業祝い。
小さな花束に楽譜、そしてカセットテープ。
これは雅紀君が必死に考えたプレゼントだったんだろう。
花束を買う雅紀君を想像すると胸の奥がじんわりと暖かくなった。
また来年……。
そう、また来年会おうね。