汚レ唄


朝、それは何の変哲もない朝だった。


朝から母親の声が響き渡り、母親に開けられたカーテンから射す日差しに目眩を感じ、小鳥のさえずりはセミの鳴き声にかき消されて、

「あ~、今日もアチ~。ダリ~。学校行きたくねぇ」
とか考えていたら、先に試験休みで家にいる麻緋の部屋から歌声が聴こえてきた。




ギターの弾き語りをすると歌声は不自然なほど遅くなる。


でも、それが当たり前なんだと思う。

今はまだゆっくりでも、きっといつかはプロと並ぶほどの腕になる。
毎日毎日、努力を惜しまなければ……。
きっと夢は叶うんだと、麻緋を見ていたら、そうなって欲しいと思うんだ。





「この歌をずっと聴いていたいなぁ」


ポツリ呟いたところで母親の怒鳴り声が家中に響き渡った。

「蒼!!いつまで寝てんの!!」

「……はいはいはーい」


もっと聴きたいのに。




「休みてぇなぁ~……学校」

麻緋のいない学校なんて行く意味なんて無いのに。
どうして行かなきゃいけないんだろう。
こうして部屋の中でゆっくりと麻緋の存在を感じて、心地いい歌声に耳を傾けていたいのに。



「よっこらせ」

悲劇の中学生は学校へと向かわせていただきますよーだ。

麻緋の部屋の扉をノックする。



「いってきます」
とだけ声をかけて1階へと降りた。


たぶん、きっと、俺がいない方が麻緋は伸び伸びと歌えるから。





家を出た途端に汗が額を滲ませる。

もや~っとした空気が全身を包み込んでなんだかとっても気持ち悪い。


「はぁ~、だり~」


そう思って1歩踏み出したとき、窓の開く音が聞こえた。



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