汚レ唄


子機からはエリーゼのためにという曲が永遠に流れている。



「彼女?」


子機を渡す麻緋の顔は半笑い。


絶対勘違いしてやがる。


「違うから」



電話を耳元に当ててみたが、麻緋は相変わらず、この部屋に残っていた。



床に散らばった服や雑誌をつまみあげては汚いものを触るように落としていく。


汚くねぇし。




そんな麻緋と目が合うが、麻緋は口元に手を当て、話せとジェスチャーをしてくる。


いやいや、麻緋がいると話せねぇし。


と今度は俺が出て行けと手を振って『しっしっ』とジェスチャーを返す。




それを見て、麻緋は眉をハの字に垂らし、静かに部屋を出て行った。


麻緋は、どう思うんだろう。


俺にもし、本当に彼女ができたら、ヤキモチとかやいてくれるのかな?


……そんなわけないよな。





麻緋はきっと何も感じない。


俺が誰と付き合っても、寂しいとも、悲しいとも、きっと何も感じないだろう。



……やっぱり、諦めた方がいいのかな?


好きになっちゃダメな奴を好きになるより、好きだといってくれる人を好きになれば……
こんなに苦しくはならないんだから。



中峰と付き合うというのも、もしかしたらありなのかもしれない。



中峰と付き合えば……普通の恋愛が楽しめるかもしれない。


栗原先輩への罪悪感が胸でモヤモヤと渦巻いている。


< 440 / 665 >

この作品をシェア

pagetop