汚レ唄
先輩の去ったときの後姿が俺の頭の中から消えてくれない。
麻緋のことを想って辛い方を選択した先輩の後姿は正直かっこよくみえたから。
俺は、電話を持っていたことを思い出し、子機のボタンを押した。
「もしもし?」
「あっ。ごめんね、いきなり電話しちゃって」
電話越しに聞こえる中峰の声は、いつも聞いてる声と違って聞こえて、不覚にもドキンとしてしまった。
「いや、大丈夫だけど……どうした?なんか用??」
「あっ、あのね?映画なんだけど、蒼くんってアクション映画とか好き?」
「普通かな」
「チケットをね?もらったんだけど、明日よかったら一緒にどうかなって思って」
「俺と?」
「うん。その……建前としては、チケットもらったからなんだけどね?
本音を言えば、ちょっと付き合ってる感ていうのかな?蒼くんと……デートしてみたいなって思って。
……って、図々しいよね、ゴメンね。
やっぱり、今のナシ……」
「いいよ。明日暇だし」
「え?いいの??」
「うん。映画みたいし、それに……」
一瞬麻緋の顔が浮かんだ。
これでいいんだ。
これで……。