汚レ唄
夏休みは、順調に過ぎていき、私のギターの腕前は急激に上った。……ような気がする。
前はなかなかスムーズに歌えなかったけれど、今では一定のテンポを崩すことなく弾けているし歌えている。
セミの声が一際うるさく聞こえる8月の半ば、蒼が汗を幾筋にも垂らしながら部屋に飛び込んできた。
「麻緋!!ちょっといい?」
返事を聞く前に既に部屋の中に入ってきている蒼。
私はというと、ギターを膝に抱えて、ボーゼンと蒼を見つめるしかなかった。
「来週の水曜日暇?!」
何も答えない私にお構いもなく、蒼は息も切れ切れに話し始める。
私よりあんたのほうが出かけてるじゃん。
そう言ってもよかったけれど、真っ直ぐに射抜く蒼の瞳を見てしまうと、そんな嫌味の1つすら言えなくなった。
「……暇だけど?」
「よかったぁ!!!」
答えるとすぐに蒼の笑顔がやってくる。
なんなんだ?一体?
「じゃあ、毎日毎日ギターを頑張っている麻緋ちゃんにプレゼント♪」
蒼は肩から提げていた青のメッセンジャーバックから、細長い封筒のようなものを取り出して、コチラに手渡してきた。
日によく焼けているその腕は、骨がしっかりとしていて、男ということを意識させる。
「蒼?……そのミサンガ」
そして、蒼の左手首には黄色のミサンガがされていた。
「これ?願い事をこの中に溜め込んだんだ。
俺の怨念込みミサンガ(笑)」
効果あるかわからないけどな。と白い歯をみせた。
蒼ってこんな風に笑うんだ。
付き合いだしてからか、なんだか大人っぽくなったような気がする。
気のせいかもしれないけれど、昔はもっと、頼りなくて、情けなくて、弱いってイメージだったけれど、最近は何だか違う。
大人の男の人に成長しているんだなぁ。