汚レ唄
「麻緋?」
麻緋の体は小刻みに震えていた。
麻緋の瞳は涙で潤んでいた。
麻緋は必死に何かを我慢するように唇をへの字に曲げていた。
「何か嫌なことあった?」
麻緋を諭すようにゆっくり優しく訊ねると麻緋はただ顔を横に必死になって振っていた。
裾を掴んでいる麻緋の右手を外してそっと両手で包む。
すると麻緋の右手は驚くほど熱かった。
もしかしたら……と思って麻緋の額に手の平を当てるが、麻緋はその当てた手を取るがやっぱり顔を横に振った。
ただ、やっぱり額は熱かった。
一瞬だけ触れた麻緋の額は熱くて、コレは熱なんだと思った。
だから麻緋は熱いんだと。
だから少し様子がおかしいんだと。
「麻緋、帰ろう」
体を支えるように麻緋を立たすと、麻緋の瞳から涙が零れ落ちた。
そして、今迄開かなかった唇が開いた。
「……歌、い……たい」
それは小さな小さな声で、必死に抑えるように途切れ途切れに発せられた声だけど、確かに麻緋は『歌いたい』と言った。
それきり、また麻緋は口を閉じた。