汚レ唄
私、歌が好き。
まだ漠然としかわからないけれど、私もいつかステージで歌えたらって思ったんだ。
観客を魅了して、心を掴んで最高のパフォーマンスをする。
彼らを見てて思ったんだ。
私も歌が好き。
大好き。
だから多くの人に私の歌を聴いてほしい。
もっともっと歌いたいって。
だから、それに気づかせてくれたあんたに感謝してる。
蒼がこのコンサートに連れてきてくれなかったら、きっと私、まだ迷ってたと思う。
だけど、蒼のおかげだよ。
決めたんだ。
私の気持ちを詞に込めて、それを多くの人の前で歌いたい。
歌って誰かの心を掴んだなら……共感してもらえたら、私のいる意味になるって思うから。
だからありがとう。気付かせてくれてありがとう。
歌えることがこんなにも嬉しいなんて……なんでだろう。
歌えることが幸せすぎて、涙が零れ落ちた。
幸せすぎて涙を流すこともあるんだね。
真っ暗な夜空。
明るく輝く三日月の光が幻想的だった。
「……すげーな」
歌い終わると蒼の拍手が静寂を破ってきた。
「もっと歌ってよ。俺、麻緋の歌好き」
「ありがとう」
私の生まれて初めてのコンサートは、波の音とキラキラと輝き続ける星空の下、お客さんは1人だったが大成功に終わった。