汚レ唄
頬に触れられた手が気持ちよかった。
柔らかくて気持ちいい。
麻緋は泣きそうな顔をしてコチラを見上げてきた。
「蒼?痛い??」
「ううん」
全然痛くない。
腫れてるけど全然痛くない。
麻緋に触れられるのって好き。
ドキドキして熱くなっていくけど嫌じゃない。
「あの、ね?冷えピタ持ってきたんだけど、貼ったらよくなるかな?」
よくなるかはわからないけど、その気遣いが嬉しかった。
多分さっきのアイスを見て冷やすことを思いついたんだろうなぁ。
なんて思いながら、さっきまでイライラしてた気持ちがなくなったことに気付いた。
不思議とイライラとは逆の……ワクワクじゃないし、何ていうんだろ?
ほんわかするというか、ホクホクするというか嫌じゃない気分。
「貼ってみていいかな?」
少し、緊張した面持ちで頬に冷えピタを貼ってくる。
その顔が真剣すぎて笑えてきた。
「何がおかしいの?」
眉を寄せ聞いてくるけど、その顔も真剣で笑える。
やばい、ツボだ。
ふと、麻緋を見ると麻緋も小さく笑ってた。
2人で笑って、なんだかそれも可笑しくて、中峰のこととか頭から綺麗になくなっていた。
頬に冷えピタを張った後もそのまま頬に手を添えたまま麻緋は呟いた。
「ありがとね、蒼」
涙ぐむその瞳に吸いこまれそうだった。
だけど、俺は何もしてないし、ありがとうなんて言われる立場でもない。
「俺、なにもしてないから」
お前を守れなかったから。
「助けてくれたじゃん。蒼がいてくれて本当に嬉しかったんだから」
そんなこと言われたらこれでよかったのかもと思ってしまう自分が情けない。
結果的に守れてないのに、麻緋が嬉しいと言っただけで、俺も無駄じゃなかったんだと思う。