汚レ唄


ハァ〜〜。

私は、再び畳みの上で大の字になった。




そよそよと風が体をなでていく。


気持ちがいい。






そういえば、私が歌を歌うようになったのは、雅紀君のおかげだった。


雅紀君が弾くピアノの曲はなんだか、聴いててワクワクして、気付けば歌ってた。




私が歌うと、雅紀君は楽しそうに目を細めて八重歯を覗かせて笑っていた。



そんな雅紀君を見て、私も嬉しくなって、音楽っていいなって思ったんだっけ。





音楽を通して気持ちを通じ合わせることができるんだって思ったら、歌って凄いなって思った。



私が卒業する時、雅紀君は、凛とした表情で私のための曲を弾いてくれた。



その時、思ったんだよね。


音楽って、弾く人の感情が音に出るんだって。



悲しいと思って弾く曲は音までもが悲しく聞こえる。


嬉しいと思って弾いた曲は音までもが嬉しさを表してるって。





演奏者にとって楽器は自分の気持ちを移す鏡なんだって思った。


雅紀君がピアノなら、私の楽器は声だった。







雅紀君が高校に行って出会えたら、言いたいことがあるって言ってくれた。


だから、私は1年が早く過ぎるように願ってた。


蒼から雅紀君が外国へ行ったって聞いて、なんでか納得した。



雅紀君は日本にいるような人ではないって気付いてたから。




1年後、雅紀君は私の前に現れないと直感した。




だけど、音楽だけは続けようと思った。



< 504 / 665 >

この作品をシェア

pagetop