汚レ唄







「♪〜」

夢を見た。



麻緋がまた歌う夢。



なんでか俺はまだ小学生ぐらい小さくて、
電話ボックスの前で歌う麻緋の周りにはたくさんの人で溢れていて、

麻緋の顔を見たいけど、チビだから見られない。



近くに行こうとしても人が邪魔でなかなか前に進まなくて、
一生懸命手を伸ばすけど、もちろん届かなくて。



もどかしくて悔しくてずっと泣いてた夢。






バカみたいな夢。


現に俺は今じゃ麻緋の身長を追い抜かしてるし?


バカらしい夢だった。








「♪〜」

「あれ?」




夢じゃない?

歌が聴こえる。




麻緋の歌が聴こえてくる。




どこから?


隣の部屋?


麻緋、歌えるの?






麻緋の歌声に誘われるように、フラフラと気付けば麻緋の部屋の前に立っていた。




確かに麻緋の声が聴こえる。






「麻緋??」

呼びかけるも返事なし。

歌ってなかった時間を取り戻すように周りの声が聴こえないくらい集中してるってことか。





コンコンとノックをしてから部屋を覗いてみる。


コチラに背を向けて歌ってる。


この歌が終わるまで待ってるか。




俺は再びドアを閉めて壁に寄りかかった。



麻緋の歌声を聴きたい。


だけど邪魔はしたくない。




だから、ここから聴くことにするよ。


伸び伸びしてて、高音なのに全くぶれることなく、むしろ高音のほうが伸びてく気がする。


柔らかな声。



いつ聞いてもゾクゾクする。


普通高音になると軸がぶれるのに。




いっつも歌ってるからか、麻緋は日に日に上手くなってる。


もちろんギターの腕前だって。


弾き始めたのは春だったのに。



夏が終わる頃には人並みに聴けるほどになってた。






< 510 / 665 >

この作品をシェア

pagetop