cafe diacre
着くまでに会話はした。でも、行き先の話になると、無理矢理方向をかえて別の話に持っていってしまう。そうして、一向に目的地は教えてくれない碧のあとを追うこと、約三十分。
そこは、茶色いレンガ造りで、緑色の蔦(ツタ)が絡まったオシャレで可愛いらしい外装のお店だった。
脇に出ている電飾スタンドの看板は横に長いタイプで、店から伸びた蔦が絡まっている。
かろうじて[喫茶]と書かれているのが分かった。
「ここ?」
「そう、ここ!」
「なんのお店?」
「な、なんのって。ふ、普通の喫茶店だよ!?」
確かに、一見してみればオシャレで素敵な外装だし、女性に好まれそうな喫茶店。
でも、碧が普通の喫茶店に一人で入るのを恥じらったり、まして緊張なんてするわけがない! 見たことがない!
しかも変に動揺してるし。
「なんのお店? 怒らないから言ってみて?」
笑顔をつくる。頬が引きつるのが分かった。でもそこを根性で頑張って持ち上げ、自然な笑顔をつくり、再び碧に訊く。
でもきっと、私の目は笑えていないと思う。
だって怒る気はもとから無いけど、今すぐにでも一言怒鳴って走って逃げたいのを我慢してるんだから。
それでも逃げずに訊くのは、何の店かって好奇心が邪魔をするからだ。
碧は一生懸命に頭を働かせるようで、それに比例するように目を泳がせている。碧の癖だ。
その癖が既に普通の喫茶店ではないことを示してる。
そして碧の方も、わずかな時間で良い言い訳など思いつかなかったらしく、小さく
「本当に怒らない?」
と確認してから、諦めたようにボソボソと呟いた。