cafe diacre


「なに言ってるの! ポチ子には先週赤ちゃんが生まれたんでしょう? おばちゃんも居るし、尊一人が行かなくてもポチ子は寂しがらないよ」


「……わ。なんか、それはそれで傷つくな……」


「それに、この店に着くまでの間に“用事はないんだよね”って私が言ったら“ないよ”って答えてくれたじゃん、最後までつき合ってよ。 この店のことも下調べしてきたんだよ、お願い! お茶一杯奢るから、ね?」


ただでさえ目の前に目的の店があって目を輝かせてるのに、それを潤ませて必死に頼み込む姿はまるで


「……う……っ!」


捨てられた子犬のようで……。ああ、心なしか耳と尻尾とまで見えてきた!


つい胸がキュンと反応してしまう。


「……っでも、私が「それに、ここなら尊の苦手を克服できるかもよ?」


…………。


私の言い分を遮って、私の弱点を突く碧。


先ほどまでの哀愁漂う捨てられた子犬とはうって変わって、私を誘惑する小悪魔へと変貌した。


私の弱点。異性と関わり合うきっかけがなかったために、異性に対する免疫力が極端にに乏しくなって現れた、男性恐怖症。


将来のことを考えると、やっぱり克服しなければならない欠点だ。


前に何度か、碧と、彼女のお兄さんに協力をしてもらい、なんとか会話を交わすことまでは出来るようになった。


けど、目を合わせての会話や、初対面の異性に自分から声をかけたり、会話が始まっても言葉がうまく紡ぎだせない、など、人見知りにも似たプチ男性恐怖症が出来上がった。


それを男性しかいないこの店でなら、少しでも克服出来るかも……。それなら、一度くらい入ってみてもいいかもしれない。


でも、プチだとしても、仮にも男性恐怖症の私が男の人たちに接客されて、心境的に無事でいられるのか。店に入ることへの抵抗感がどうしても拭えない。


私のなかで、両者が激しく葛藤を繰り広げていた。



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