おさななじみ
満と衣里
古くから建っている神社だけど5、6年くらい前に改装を入れた。
何せ構造上地震には至極弱い。
だけど俺が今立つ石畳だけは数百年変わらずここに敷かれて、神を通し、人を通してきた。
「兄貴、手が止まってる。サボらないでくれ」
「わぁーってる」
ふと石畳に刻まれた、やたら難しい漢字を赤い絨毯を払うための竹箒で突いていた。
後ろから俺の背中を柄で突きながら、お咎めの声が聞こえてくる。
鳥居の前の市道を軽快な足取りで駆けていく近所のオッチャン。
これが7時の合図。
毎日きっかりにここを通るから、勝手に合図に使わせてもらってる。
「通、もう今日は終わり。腹減ったー!!」
兄貴はそれしか考えないのか、しかたないな
と諦めるようなため息はいつものこと。
さっさと家に戻って準備しないと、こっちが学校に遅刻するっての。
とりあえず俺と弟、通は神殿から、少し離れた俺たち二人の家に戻って朝食をとることにした。
5、6年前だろうか。
俺は両親を亡くし、弟が世話になってたこの神社の神主の家に転がりこんだ。
その時はまだ小学生だった俺たちは何かと神主夫婦に迷惑を掛けた。
子供を授からなかった何とかで、かなりよくしてもらった。
高校生になったある日、俺は弟に家に戻らないかと提案した。
両親亡き後も定期的に掃除しに来ていた家。弟にはあまり思い出はないかも知れないが、俺には両親と過ごしたと少ない日々の思い出が詰まっている。
母親がいない家庭で体の弱かった通を面倒みるのは大変だった。
申しわけない気持ちで神社に小さい通を預けたことは今でも覚えている。
だからいつか、この家で弟と暮らそうと決めていたのだ。
「あぁ。俺が兄さんについていかないわけないだろ」
そう言ってくれた弟と今、同じ高校に通い、こうして毎朝掃除しに世話になった神社にバイトへ来ている。