堕ちた天使と善良な悪魔。
「――シン!」
突然の声。しかし僕をシンと呼ぶのは、一人しかいない。
公園の入り口近くで、奈津美が少しだけ笑いながらこちらを見ていた。真白いコートと黒く長い髪を揺らしながら、僕の座るベンチへと駆けてくる。
「どうしたの、こんなところで。ああ、またぼんやりしてたんでしょ。大方、小テストで悪い点でも取った? シンは授業あんまり出ないからなぁ」
近くに来るなり、ころころと笑いながら喋りかけてきた。
奈津美は僕がここに越してきた頃に知り合った女の子だ。僕らは同じ高校に進学することになり、また同じクラスでもあった。
「そういう奈津美はどうしたんだ? こんな夜更けに」
「ん? バイト帰りだよ。今日また嫌なお客さんにつかまっちゃってさぁ」
いつの間にか彼女は僕の隣に腰かけ、今日あった他愛の無いことを語り始めていた。僕は基本的に聞き役に回り、簡単な相槌を打ちながら彼女の話を聞くことが多い。
それなりの時間を話し続け、はっとしたように奈津美は立ち上がった。
「い、今何時? あんまり遅くなるとお母さんに怒られるの、すっかり忘れてた」
僕は何気なくポケットから時計を取り出す。それは銀の懐中時計だった。かちりと蓋を開いて時刻を確認すると、もう既に十時を回っていた。
突然の声。しかし僕をシンと呼ぶのは、一人しかいない。
公園の入り口近くで、奈津美が少しだけ笑いながらこちらを見ていた。真白いコートと黒く長い髪を揺らしながら、僕の座るベンチへと駆けてくる。
「どうしたの、こんなところで。ああ、またぼんやりしてたんでしょ。大方、小テストで悪い点でも取った? シンは授業あんまり出ないからなぁ」
近くに来るなり、ころころと笑いながら喋りかけてきた。
奈津美は僕がここに越してきた頃に知り合った女の子だ。僕らは同じ高校に進学することになり、また同じクラスでもあった。
「そういう奈津美はどうしたんだ? こんな夜更けに」
「ん? バイト帰りだよ。今日また嫌なお客さんにつかまっちゃってさぁ」
いつの間にか彼女は僕の隣に腰かけ、今日あった他愛の無いことを語り始めていた。僕は基本的に聞き役に回り、簡単な相槌を打ちながら彼女の話を聞くことが多い。
それなりの時間を話し続け、はっとしたように奈津美は立ち上がった。
「い、今何時? あんまり遅くなるとお母さんに怒られるの、すっかり忘れてた」
僕は何気なくポケットから時計を取り出す。それは銀の懐中時計だった。かちりと蓋を開いて時刻を確認すると、もう既に十時を回っていた。