堕ちた天使と善良な悪魔。
「……綺麗な時計。それ、どうしたの?」
「え? ああ……えっと……あれ?」

 言われてみれば。僕はそんな時計を買った覚えは無いし、誰かからもらった覚えも無かった。

 よく見てみると、非常に高価そうな銀時計だった。蓋には円環になった螺旋模様に翼が絡まる不思議なモチーフがかたどられており、また月明かりを反射してきらきらと蒼く輝いている。また蓋の裏側にも時計の裏にも、メーカーの名前や出自を示すものが何一つ無かった。

「何、覚えてないの? あはは、シンらしいと言えばらしいけどねー……って、もう十時じゃない!」

 笑ったり慌てたり、奈津美は忙しい。しかしそんな様子が、どこか微笑ましかった。

「そうだ、忘れるところだった。メールしようと思ったんだけど、丁度いいかな。シン、来週の水曜日……何か予定、ある、かな?」
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