Circus
第壱章「X」
 それは突然の出来事だった。”其れ”は何処からともなく現れ、僕達を蝕んでいった。
 奴らが最初に発見されたのは、東京のごく普通な街中という、とても不自然な場所だった。それは、予兆も無く、形跡も無く、誰もが予想だにしなかった出来事だ。”其れ”はこの星で産まれたのか、他からやってきたのか、未だに不明のまま僕らと同じこの惑星に生存している。ただ、判っているのは、人間を主食とする生命体であるということだった。

 やがて、世界各国で次々と同様の被害が報告されて行き、人類は僅かの間にその大半を失った。各地で様々な防衛策がなされたが、何処からとも無く現れる”其れ”の所在を掴む事が出来ず、人はこれまでの生活を送ることは不可能になってきていた。そして、各政府は残された人間を集め、生き延びる為だけの『施設』を作り、殆んどの者がそこに移り住み集団生活を余儀なくされた。しかし、それを拒んだ僅かな者達はまだ街に残っていた。それらの人間がどうなったかは知る由も無い。もう、建前でもそんな連中にまで手を差し伸べる余裕などはなくなっていた。これまでが、平和すぎたのか、あるいは自由すぎたのか。いずれにしても、人間という生き物の身勝手さは変わらぬままの様だ。いま僕がいるこの場所も、結局は何も変わらないわがままな人間達で覆い尽くされている。こんな時だというのに、誰もが自分という物を主張し、身勝手な行動ばかりで協調性が無い。誰もが自分以外を信じず、他人を蹴散らして生きている。何時から人間はこうなってしまったのだろうか。まるで、人を食い散らかす”其れ”達と同じように見える。目に見える形が違うだけで、現実は何も変わっていない気がしてならない。
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