Circus
 『機関』に呼び出された僕は、またその世界に戻ってしまうような気でならなかった。何かそんな気がしていた。僕は特捜部隊の車に乗せられ、『機関』のある場所へ連れて来られた。『機関』の建物はまさに僕が嫌悪を抱いていた病院の姿に酷似していた。中に入っていくにつれ、気分が悪くなるのを感じた。車がその敷地に入るなり、門は硬く閉められた。そして、質問の余儀なく全ての事柄が淡々と説明され、自分が従事するべき部屋に放り込まれた。この研究機関は極秘のため外部とは接触をたたれ外出も出来ず、それっきり僕は『施設』には顔を出していない。皆どうしているだろうか。ただ与えられたことに従事し、外部の情報など耳にすることも無く、今、世間がどうなっているかも何も判らなかった。何より、朝から晩まで忙しく、そんな事を気にしている余裕はなくなってきていた。

 僕が呼び出されたのは、なにやら前任の医師が事故によって亡くなったためだと聞いた。しかし、一部では自害したという話も聞いた。あくまで噂だといが、もしそれが本当なら、ただ死んだのではなく自殺だ。僕はなおさら、『施設』に戻りたかった。何かに追い詰められたのだろうか?僕はその代わりなんてのは嫌だ。何があったのか?何かに追い詰められたのだろうが、人間一人が思いつめて死ぬには、それ相応の事柄があったはずだ。この『機関』の中の空間は、以前にも増して人だらけだ。多くて少ない人が狭い空間に押し込められている。そして、逃げ場は無い。同じポジションに来た僕も、彼を追い詰めた同じ何かを見るのだろうか。そして、僕も同じように感じるのだろうか。
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