Circus
そして、彼女が僕を見た。

 「終わり?」

彼女は、小さく呟いた。

 「うん。特に異常はなかったよ。しばらくは出動は無いと聞いているから、十分体を休めるといいよ。何か食べたいものはある?」

少し微笑みながら、彼女は首を横に振った。

 「病気じゃないのね・・・・・。」

その言葉は、僕に突き刺さった。返す言葉も見当たらず、僕は自分の眼鏡を指で触った。彼女は悲しげに微笑んだ。以前からそうだった。ほんの少しの言葉だったが、それは僕に対して心を許してくれている証だった。それに気付いた僕は、出来る限り聞いてあげることにした。彼女にとってそれがほんの少しの救いになるならと。自分にはそんな資格は無いのだが、それで彼女が救われるのならそうしたかった。これまでは、誰も彼女をそんな風に扱っていなかったからだ。そんな人間が一人もいなかった。それが、彼女のその沈んだ目をもたらしてしまったのだ。

 「先生・・・・。」

 「えっ。」

 「いつまで続くんだろう・・・。」 

 「僕には、・・・・・解らないんだ。・・・。ただ、君は皆のためになる事をしているんだ。皆、君を必要としている。それだけは解る。」

 「本当に?」

彼女のどの言葉も、か弱く力が無い。でも、一言一言が僕に突き刺さってくる。何も出来ない僕に。

 「うん。本当だよ。」

 「私は・・・・。」

そう言って、口を噤んだ。

 彼女はいつも、そうだった。何かを心に秘めている。何かを僕に伝えたがっている。ただ、彼女は逃げたがってるようにも、助けを求めてるのでも無い様に感じた。彼女は、自分の使命を受け止めている。しっかりでは無いが、暴れたり逃げ出そうとすることも無い。以前はずっとそうだったらしいが、今は落ち着いている。何かの為にじっと我慢しているようだ。ある種、仕方の無いことかもしれない。毎日のように、精神を安定させるためのドラッグのような薬を服用され続けてきたらしい。僕はもう、そうさせてはいないが。
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