スキャンダルなアイツ-プレイボーイに気に入られたのは毒舌地味子-
「……そう、か」
わずかに聞こえた稜佑の声に
少し動悸が落ち着いてきた私は
顔を上げる。
彼は私を囲むのをやめて
ふっと背中を向けた。
「……あ、ごめ――」
『ごめんね、ふらついて』
そう言おうとした私は
歩き出してしまった彼にびっくりして
口が止まった。
恐ろしいほど
冷たく感じる空気に足が動かない。
今何を言っても伝わらない。
そんな予感がした。
来た方向に戻る彼の背中は
まるで知らない人のもののようで
私はどうしようもないことを理解して
また再び歩き出す。
いいんだよね、これで。
だって近づかれても
気分が悪くなってしまうし
心配かけたくないし。