銀鏡神話‐玉響の驟雨‐
第一部 ―灯火―


《目覚めるんだ。》


俺を呼ぶのは……誰だ?


《覚醒しろ、煌の王よ。》


やめろ……

やめてくれっ……


《我が絶対の力……貴公に授けるぞ。》






「うわぁぁああ」

赤髪の少年は酷い汗をかきながらベッドから飛び降りた。

彼の自慢の綺麗な深海の様な瞳は、可哀想な事に、ぐっちょりと涙で滲んでいた。

そんな彼のベッドの下で布団を敷いて寝ていた少女は、少年に向かって蹴り掛かかる。

「あーもう、うっせーな!
莫迦、阿呆、お前の母ちゃん中年腹!」

長い黒髪を、後ろで一つに結んでいる少女は、きっと八重歯を剥き出して怒りを露わにすると、早口で言う。

彼女の口の悪さといったら、今ので解ってもらえたに違いない。

幸い蹴られたものの、家具が滅法無い此の部屋。

ただ床に酷く頭を打っただけで済んだ。


ドン ドン ドン


部屋の外の階段から地響きがする。

「やべっ」

彼女がしまったとばかりに口を塞いだ時にはもう時既に遅し……

地響きの主はドアを乱暴に開けると乗り込んで来ると、少女の頭を思いっきり殴った。

瘤ができた頭が、シューと、此の鉄拳の強さを讃える熱気を発していた。

「ケリア婆っ」

「婆じゃないよ! か・あ・さ・ん、だろうフィルリア!」

緑色のワンピースの上からピンクのエプロンを着た小太りの主婦は、蜜柑色の髪を後ろで団子型に括っていた。

べた付く油っぽい肌は小麦色。

どすの利いた声で少女……フィルリアに渇をいれると、筋肉がっしりの腕で彼女を持ち上げた。
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