ピンクの星
「春の匂いだ!」

隼人がクンクン鼻をならす犬みたいに、辺りを嗅ぎまわって、しまいにピョンピョン跳ねだした。

「ちょっと、やめなよ。」

私はそんな隼人に呆れつつも、彼の後ろをついて歩いた。
目を離すと、どこかに行ってしまいそうで、危なっかしくてしょうがない。

まるで子犬を散歩する飼い主のような気持ちだ。

「春の匂いなんてあるの?」
「あるよ!なんでわからないの?ほら、もっとちゃんと空気を吸いこんで!」

「えー?わかんない」

隼人に言われるようにして、胸いっぱいに深呼吸をしてみるが、私には春の匂いがわからなかった。

「春菜は鈍いなあ、昔から。」
「言ったなあーっ」
私を怒らせて、隼人はうれしそうに前を走る。
私は追い付かない程度にそれを追いかける。

隼人と私は同い年だ。

しかし私のほうが背が高い。
私のほうが足が速い。

二人で一緒にいても、姉弟に勘違いされる。

昔からそうだったから私は気にしなかったが、隼人は嫌がった。

小さい時から一緒に育ったお隣さんどうしで、高校生になってもこうして仲良しだった。
朝はどちらかが寝坊しないかぎり、こうやって一緒に登校した。

しかし今日は二人にとっては特別な登校だった。
小さい時から心臓が弱かった隼人は、去年一年休学していて、今日から久しぶりの登校なのだ。

私は高校三年生

隼人は 二年生の春だった。
< 1 / 2 >

この作品をシェア

pagetop