彼女には言えない。
俺は竜希から顔をそらして下を向いた。
「やっぱいるんだ?そりゃそーだよな、で?誰だよ?」
竜希は隣で楽しそうにしていたけど、俺は当たり前だが気まずい。
俺はかけていたメガネを右手でクイッと上げる。
「竜希には言わない」
そう言うと、竜希は笑った。
「俺には言わないって、どうせ誰にも言う気ねぇんだろ?」
竜希はそう言って笑っていた。
まあ、誰かに話すつもりはないけど……
とりあえず竜希には絶対言えないから。
薫が好きだなんて…
「でもさ、秋。好きな人本人にも言わないってことか?」
竜希の言葉に、胸が痛むのがわかった。
本人にも、
薫にも言わない?
「……あぁ、言わない」
言えないよ。
だって、薫はずっと……
竜希しか見てないんだから。
恋の痛みは自分でも気付かない内に増していく。