彼女には言えない。





俺があんなこと言ったからだろうか?


『喧嘩でもしちまえ』


それとも、神様が俺にチャンスでもくれたんだろうか?




その日の夜。



―――ピーンポーン…



インターホンが突然鳴り
俺がドアを開けると、



「はーい、セールスならお断り…薫?」




彼女は泣いていた。

外は真っ暗で、少し前までの青空なんて嘘のように雨が降っていた。





「薫!?お前どうしたんだよ?竜希は!?今日デートだったんじゃ…」


「うっ…ぐすん…け、喧嘩…しちゃった…うぅ」




雨でびしょびしょになった薫。
足元は泥が飛び散って汚れていた。




「とりあえず入れよ。風邪ひくぞ」





その時、俺は思った。


俺は最低の男だ、って。




薫がこんな泣いてるのに、

こんな時に俺を頼ってくれてることが嬉しくて、


喜んでる。


足元についた泥。
走って俺の所まで来たんだと思うと嬉しくて、


つい、ぎゅっとしてしまいたくなった。








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