彼女には言えない。
静かな部屋には
雨の音だけが響く。
「…秋人」
薫は俺の腕の中から
顔を見上げた。
「……じょ、冗談だよ」
急に恥ずかしくなって
薫から体を離す。
「悪ぃ…なんか」
弱みに漬け込んで
なにやってんだよ、俺は。
自己嫌悪しながら
かけていたメガネを右手でクイッと上げた。
「ううん、ありがと」
だけど、薫はにこやかに笑う。
優しい声で言った
その一言が妙に遠く感じて、胸がざわめく。
「じゃあ、あたしそろそろ帰るね…」