彼女には言えない。
「…いいよ、本当ありがと。今は一人で少し考えたいから」
そう言った薫は、優しく、
でも、ガラスのように簡単に割れてしまいそうな笑顔でそう言った。
俺は…なにやってんだ。
その時の薫の顔を見て
そう思ったんだ。
薫が雨の中走って
俺の所まで来た。
でも、それは
俺に会いに来たんじゃなくて、助けを求めて来たんだ。
俺を頼って来たのに…
俺は何を浮かれてたんだ。
結局、薫をこんな顔のまま帰らすんじゃ、薫がここまで来た意味がねぇじゃんかよ……
しっかりしろよ、俺。
目の前にいる女は誰だ?
てめえが惚れた女だろ。
「なぁ…薫」
靴を履く手を止めた薫の手を力強く握る。
「こんな小さい手で何一人で抱えてんだよ」
そう言って、
俺はまっすぐ薫の顔を見る。
「お前は一人じゃない。辛くなったら、その抱えてるもん、誰かに分けたって罰はあたんねぇんだから」