彼女には言えない。
薫はそれだけ言い残すと
屋上を後にした。
竜希はその場に立ち尽くしている。
「竜希?」
恐る恐る声をかけてみる
が、なんの反応もなかった。
でも、竜希の固い拳が小刻みに震えていた。
すると、竜希が突然顔を上げる。
その目にはうっすら
涙が溜まっていた。
「俺…ちょっと行って来る」
そう言って屋上のドアに竜希が手をかける。
「…待てよ」
俺の声に反応し、竜希が止まる。
「今お前が行ってどうなる?また、言い合いになるだけだ。今は止めとけ」
「でもっ!」
竜希は悔しそうに
屋上のドアを殴った。
「落ち着け。もっと冷静に物事を考えろ」
「……くそ」
竜希は俺にとって
完璧で格好良くて…
そんな竜希の涙が
俺を騒がせる。
ただ、今は薫の所に
行かせないほうがいい。
そう思った。
竜希のためにも。
薫のためにも。