彼女には言えない。




薫はそれだけ言い残すと
屋上を後にした。



竜希はその場に立ち尽くしている。




「竜希?」




恐る恐る声をかけてみる
が、なんの反応もなかった。




でも、竜希の固い拳が小刻みに震えていた。





すると、竜希が突然顔を上げる。


その目にはうっすら
涙が溜まっていた。




「俺…ちょっと行って来る」



そう言って屋上のドアに竜希が手をかける。








「…待てよ」



俺の声に反応し、竜希が止まる。




「今お前が行ってどうなる?また、言い合いになるだけだ。今は止めとけ」



「でもっ!」



竜希は悔しそうに
屋上のドアを殴った。





「落ち着け。もっと冷静に物事を考えろ」



「……くそ」




竜希は俺にとって
完璧で格好良くて…

そんな竜希の涙が
俺を騒がせる。




ただ、今は薫の所に
行かせないほうがいい。



そう思った。


竜希のためにも。
薫のためにも。







< 44 / 100 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop