彼女には言えない。
「…ちょっと、今時間あるか?」
薫は不思議そうな顔で俺を見た後、チラリと振り返り教室を見渡す。
すると、近くに座っている奴に声をかける。
「ねぇねぇ、あたしの机の上に卒アルあるからみんなに『コメント一言は書け』って言ってくれる?強制ってね」
そして、薫は俺の腕を掴む。
「少しなら時間あるっ!図書室行こ、今ならきっと誰もいないよ」
そう言って笑うから、
俺も自然と笑顔になれた。
薫はいつもこうして
自由に連れ回す。
腕を捕まれれば、
振り払えないし。
笑いかけられれば、
嫌とは言えない。
俺は薫の自由さに
振り回されるのは
嫌いじゃない。
むしろ、その逆。
薫の自由な波に
流されるのが心地良かったんだ。