彼女には言えない。
──なぁ、知ってたか?
「俺がいつから自分の事"俺"って言うようになったのか知ってるか?」
俺の言葉に
少し首を傾けながら
考える素振りをする薫。
「確か…1年の頃は自分の事"僕"って言ってたわね」
そして、俺に聞いてきた。
「なんで?」って。
俺は少し前にいた薫の横を通り過ぎる。
「それはさ、自分に好きな人が出来たって気づいたからだよ」
後ろから薫が振り向く
音がして、俺も振り返る。
「俺は今まで恋愛に興味もなかったし、誰かを好きになったことなんてなかったんだ」
俺は近くにあった椅子に腰をかけ、隣の席を指でトントンと叩く。
「座れよ、薫も」