彼女には言えない。
俺は薫がゆっくりと
隣に腰を掛けるのを
確認すると、
前を見たまま口を開く。
「…俺さ、ずっと勉強ばっかで、それ以外何もなくて…でも、人生で初めて誰かを好きになったんだ」
初めて、恋をして。
初めて、この胸の痛みを知り。
初めて、誰かを想って泣いた。
「…全て初めてだったんだよ」
自分が恋をした。
そう気づいた時、
当時の自分は考えた。
───どうしたら、
僕だけを見てくれる?
どうしたら、
僕を好きになってくれる?
どうしたら……
「…なるほどね」
薫は何かを見つけたかように
優しく呟く。
触れたら、簡単に割れてしまう。
そんな俺の気持ちを
悟ったかのように。
優しく微笑んだ。
「秋人はさ…」
そこまで言うと
薫の大きな瞳が
真っ直ぐと俺に
注がれる。
「その子に一人の男として見てほしかったんだね」
そして、
俺の涙腺を簡単に
破壊した。