【短編】ダメ男依存症候群
一度、旬と出掛けて、昼食にパスタの専門店に行った時のことだ。
ファミレス並の安価だったので、二人合わせて二千円以下だった。これくらいだから、奈津美が全額払おうと伝票を持って、会計を済ませようとレジへと行くと…
「俺が払う」
と、いきなり旬が言いだした。
「いいよ、これくらいだし」
一応旬がそう言うのはいつものことなので、奈津美は軽くあしらった。
しかし旬は、
「これくらいだから俺が全部払う」
と、財布を出そうとする奈津美の手を押さえた。
「いいってば。旬、お金ないんでしょ?」
いつも大体そうなので、奈津美はもう自分が払うつもりで旬の手を退けようとした。
「今日はあるよ。一昨日給料日だったから」
珍しく強く旬は言って、奈津美の手を離そうとしない。
「でも家賃とか払ったりしたらすぐなくなるって言ってたじゃない。気持ちはすごい嬉しいから。だから手、離して」
「やだ」
本当に珍しかった。旬がここまで強固な態度をとるなんてことは、あれが初めてだったんじゃないだろうか。
「……分かった。じゃあ旬の分だけ払って? あたしも自分の分払うから」
無難に割り勘にしようと、奈津美は旬にそう言った。
しかし、
「やだ。ナツの分も払う」
と、まるで我儘な子供のように旬は聞かなかった。
「………だから旬の分だけでいいってば」
奈津美もここはとりあえず旬の言う通りにしておけばよかったのかもしれない。しかし、奈津美も奈津美で強情に首を縦に振らなかった。