【短編】ダメ男依存症候群

「俺が払う」

「だからいいってば」

「あ、いいって言った」

「そっちのいいじゃない! もうっ旬!」

 子供のような言葉の応酬が続き、いい加減イライラしてきた奈津美は、キッと旬を睨んだ。


「……………ぷっ」

 二人の目の前で、吹き出す音が聞こえた。


「あ、すっすいません!」

 レジを担当していた若い女性の店員が、顔を真っ赤にして俯いた。その肩はふるえている。


 無理もないだろう。目の前で、カップルがこんな馬鹿な言い争いをしていたら……それも、男と女の立場が逆なのだから。

 この店員も、客の手前、相当我慢して吹き出したのだろう。

 奈津美は、顔から火が出る思いがした。




 あれは今思い出しても恥ずかしい……

 旬も、きっと彼氏としての自覚のようなものがあって、ああしたのだろう。それは本当に嬉しいのだが……もうちょっとさり気なくしてほしい。あんなに強情にならなくたっても……

 それは奈津美も同じだが。


 よく考えたら、いくら相手が年下だからといって、あそこで素直に甘えられない女なんて、可愛いげがなくないだろうか。というか、旬の前での自分は、可愛いげなんてないじゃないかと、今更になって奈津美は気付いた。


 いつもピリピリして、小言を言って、気付けば『もうっ!』というのが奈津美の口癖になっている。

 確かにこれが奈津美の気性ではあるが、男の前でこれはないだろう。せめてもう少し、作ってでも可愛いところを見せるのが普通じゃないだろうか……


 どうして旬は、こんなに可愛いげのない自分と付き合っているのだろう……
 考えていると、そんな疑問が湧いてくる。


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