【短編】ダメ男依存症候群
「ナ~ッちゃんっ♪」
突然、そんな聞き覚えのある声がして、後ろから何かがのしかかってくるような衝撃を受けた。
こんなことをするのは奴しかいない。それにこの声……
「旬!?」
「当たり~♪」
ご機嫌な声が返ってくる。顔を横に向けると、すぐ横に旬の顔がある。
「もうっ…旬!」
早速口癖が出てくる。それに対し、旬はへへっとしまりのない顔で笑った。
「ナ~ツ~。こんなところで会うとか嬉し~」
旬はそう言って、奈津美を後ろから抱き締める。もし本当に旬が犬なら、千切れんばかりに尻尾を振っているに違いない。
「もうっ…恥ずかしいから離して」
奈津美はそう言って、体に巻き付く旬の腕をほどいた。
勿論、ここは街中で、人の目も多い。皆ちらちらと二人の方を見ている。
「旬…誰か確認しないでいきなり飛び付くのはやめてっていつも言ってるでしょ。間違ってたら変質者になるじゃない」
そう……こういうことも初めてではない。
旬は、所構わず、奈津美を見つけると、それこそ犬のように飛び付いてくるし、しかも奈津美を驚かすためと、まず声をかけるとか、確認をしようとしない。
「俺がナツのこと間違えるわけないじゃ~ん」
旬はいつも笑顔でそう言うが、他では本当に間違えたことがないのか、不安になる。
「ナツ、何してんの? 帰るところ?」
「うん。旬は?」
「俺はバイト。途中まで一緒に行こっ」
旬は奈津美の返事を聞く前に、奈津美の手をとった。