【短編】ダメ男依存症候群
「うわっ。ナツ、手ぇ冷た!」

 旬が驚いたように言って、奈津美の冷えた指先を握った。


「じゃあ……」

 旬は奈津美の指を絡めて手を繋ぎ、その手を自分のダウンジャケットのポケットの中に入れた。


「これでよし! あったかい?」

 旬が奈津美にそう聞いてきた。


「うん……あったかい」

 奈津美は素直に頷いた。旬は、それを見て、満足そうに笑った。

 本当に、暖かい。旬の手の熱が、奈津美の冷えた手に伝わってくる。ポケットの中も、旬の熱が籠もっていて、奈津美の手全体が旬の温もりに包まれているみたいだ。


 こういう、カップルだと当たり前、ということが、奈津美は好きだった。学生時代に学生同士だったら当たり前にしていたけれど、社会人になったらなぜかそういうことをしなくなった。

 多分周りの目も気になって、互いに気恥ずかしいというのがあったからだろう。


 でも、旬との場合は違った。むしろ、旬がそういうことをしたがる。

 そういえば、パスタ屋での出来事が原因で、それを知った。




「もうっ! 旬のせいですごく恥ずかしかった!」

 パスタ屋を出て、二人は街中を歩きながら話していた。というか、奈津美が例の如くピリピリとしていた。

 結局、あの場は奈津美がさっさと会計を済まし、逃げるように店を出た。他の客もかなり注目していたらしく、笑い声が聞こえた。


 こんなに恥ずかしい思いをしたのは、本当に初めてだった。もうあの店には行けない。そう思っていた。

 旬を見ると、不機嫌そうな顔をしている。なぜだか全く分からなかった。

「……旬。そんなに払いたかったの?」

 この時は本当に、幼稚園児かと思った。何でこれぐらいのことでこんな喧嘩したような空気になるのか……


「ナツ。俺ってナツの彼氏だよな?」

 いきなり旬はそんなことを言いだした。


「何言ってんの? そうじゃないの?」

 というか、旬が勝手にそういうことにしたからじゃないのか。そう思いながら奈津美は言い返した。


「だって……何か違うじゃん。メシとか、いっつもナツが当たり前のように払うし」


 その言葉に奈津美は目を丸くした。

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