【短編】ダメ男依存症候群
「確かに、俺、金ないけどさ。さっきみたいに俺が出すって言っても、断って、ナツが払っちゃうし。……それに、デートの時、手も繋いでくんないし。今も俺側の手で鞄持ってるし」
「えっ……」
言われてみて、奈津美は確かに、そうだと気付いた。
今まで、何回かデートしたが、本当に一緒に出掛けて並んで歩くだけで、特に何ということはなかった。しかし、ここ何年かの奈津美にとっては、それが当たり前になっていた。
「ナツって、そういうの嫌いなの?」
旬のその言い方は、少し寂しそうだった。
「えっ……あ、別にそういうわけじゃ……今までそういう習慣なかったから……」
こういうことを言うのは気恥ずかしくて、奈津美は少し下を向いた。
「……嫌ってわけじゃない?」
旬は奈津美のことを覗き込むようにして聞く。
「うん」
奈津美は小さく頷いた。
「じゃ、繋ご?」
旬はそう言って手を差し出した。
奈津美は、黙って、少し緊張しながら旬の手を、ぎこちなく握った。
「へへっ」
旬は、これだけで、さっきまでの不機嫌そうな表情と打って変わって、とても嬉しそうな顔をして笑い、奈津美の手を握り返し、指を絡めた。
奈津美も、これだけのことだというのに、嬉しかった。久しぶりだったからだろうか、まるで初めて付き合った人と初めて手を繋いだ時のように、胸がときめいていた。
こういうのっていいな。と、初めてしみじみと感じていた。
思えば、旬と付き合い始めて、そういう純粋で素朴な恋愛も味わっている気がする。
やっぱり、旬が自分より若いからなのだろうか。そう思うと、奈津美は自分が急に老けたように思える。
「旬、今からどこのバイト?」
自分のネガティブな思考を、奈津美は何かを話すことで誤魔化す。
「居酒屋だよ」
「……居酒屋って、あの?」
「そう。あの」
旬は、ニヤっと笑う。
それを見て、奈津美は話題を間違えたと後悔する。
旬が今から向かうバイト先は、約一年前、二人が出会った居酒屋だ。