【短編】ダメ男依存症候群

「シュンってどこのシュンだ?」

「オキタだよ、オキタシュン」


 隣からの声を聞き、奈津美は固まる。旬と同じ名前だ。


「旬かも……」


「え? 居るの?」

 カオルが隣を向く。


「ううん……」


 この店は、一つのテーブルごとに衝立てのようなもので仕切られている。座った時の頭の高さほどのそれを、奈津美は背筋を伸ばしてそっと隣を覗いた。

 奈津美の座高ではあまり見えないが、向こうが男三人ということが分かった。背の高い、それぞれ違う種類の茶髪の頭が三つ見える。


「旬の知り合い……っぽい」

 髪型の感じや、先程聞いた声で、旬とそれほど年が変わらないだろうと奈津美は推測した。



「ああ。旬なら最近会ったぞ」

 三人のうちの一人が言った。


 奈津美は、そして野次馬根性を働かせたカオルまで、衝立ての方に耳を寄せている。まさに壁に耳、という状態だ。


「マジ? どこで?」

「あいつの家。俺、高三の時にシュンにCD貸してさ、それがないと思ってたらあいつ、返すの忘れてたとか言ってこの間メールよこしたんだ」

「あー…シュンのヤツ、そのへんいい加減だよなぁ。漫画とかすぐに返ってきた試しないぞ」


 ……ちょっと、旬らしいという影が見えてきた。


「あいつの部屋マジで汚ねえから、貸したもんは大概あいつの部屋に埋もれるんだよな」


「旬だ」

 奈津美は小さく呟く。『部屋が汚い』で確信した。


 この辺りの二十歳前後の男で、貸したものが返ってこないようないい加減さで、物が埋もれるほど部屋が汚いオキタシュンは、奈津美の彼氏の旬しかいない。

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