【短編】ダメ男依存症候群
7 アンバランス
本日、二月十四日。バレンタインデー。
午後五時。定時に仕事を終えた奈津美は、ロッカールームで制服から私服に着替えていた。いつもよりもてきぱきと身仕度を整えている。
「奈津美、今日は早いわねぇ」
カオルはいつも通りのペースで着替えている。
「ケーキ作らないといけないから」
奈津美はそう言いながら着替えを終える。そして皺にならないように制服をきっちりとハンガーにかける。
「ああ。それに今日はお泊まりだもんねー」
カオルがからかい顔で奈津美を見る。
「べっ別にそれは関係ないから!」
ほんの少し頬を赤くして奈津美は言い返す。
「でもどういう風の吹き回し? お泊まりOKしたのって」
「…まぁ、イベントの時ぐらいはいいかなって思ったの」
『何となく、会いたくなったから』なんていくら友達でも、というか友達だからこそ恥ずかしくて言えない。
「へ~。まぁ普通はやっぱりそういうもんよね。いいなぁ…やっぱりあたしも今日会いたかったなぁ」
「でも週末会うんでしょ?」
「うん…でもやっぱり世間がバレンタインムードの中で一緒に居たいじゃない。まぁ、ワガママは言えないけど」
「確かにねぇ……あっ、じゃああたし帰るね!」
奈津美は時計を見て、急いでロッカーを閉めて鍵をかける。
「じゃあね。お疲れ様!」
「お疲れー。よい一夜を」
そんなカオルの声を背中に受け、奈津美は早足でロッカールームを出た。