【短編】ダメ男依存症候群
奈津美は家に帰って、大急ぎでケーキ作りを始めた。
この前はとっさに思い付いた言い訳でケーキをゆっくりめに作れるからと言ったが、本当ににそうしてよかったと思う。夕方、帰って来てからしか作る時間がないので、もし会って渡すだけなら昨日のうちに作って、今日、ラッピングしてまた出掛けるという面倒臭いことになってしまっていた。
…そう考えてしまうと、やっぱり自分勝手な理由だろうか。旬の家でなく奈津美の家にしたのは、自分の家なら泊まりにしてもあまり疲れないからだし、バレンタインに旬の部屋の掃除というのもムードがないと思ったからだ。
まぁ、旬だから泊まりならどっちの家でもあまり気にしていないだろう。そう思っていいことにした。
一時間半ほどでケーキはできあがった。チョコレートの生クリームでデコレーションも完璧だ。
時計を見てみると、六時半前だった。
旬は今日、夕方にバイトが入っているので、そこから直接来る。六時に上がるから、六時半頃には来ると言っていた。
もうすぐ来るだろうと思い、奈津美は先に夕食の支度を始めた。
それからまた一時間。旬はまだ来ない。
夕食の準備は、とっくにできてしまった。
遅い。いくらなんでも遅すぎる。携帯を見てみても、メールも何も来ていない。
バイトが長引いてるんだろうか。だとしても遅すぎではないだろうか。
旬が連絡もなしにこんなに遅れるなんて珍しい。いつも約束の時間よりもやたら早いことはあっても、遅れることなんてめったにない。
奈津美は出るか分からないが一応旬に電話をかけてみる。
「おかけになった電話は、電波の届かない所にあるか――」
受話器の向こうで聞こえたのは、そのアナウンスだった。
奈津美は少し心配になってきた。
確か、夕方のバイトはカフェだと言っていた。そこはここから歩いて十五分ぐらいの所……
行ってみようか。
奈津美は思い立って、すぐにコートを手に取って部屋を出た。