【短編】ダメ男依存症候群
「あれ…ナツ、掃除したの?」
枕から顔を上げて部屋を見渡した旬が言った。
昨夜、掃除が中断され散らかったままだったはずなのに、今はもう綺麗に片付いてゴミ一つ落ちていない。
「うん」
奈津美はただ一つ頷いた。
今日、六時前に目覚めた奈津美は、そろそろ起きてシャワーでも浴びようかと体を起こし、ベッドから下りてゴミを踏んだ。そこで散らかった部屋を見てその状態に耐えられなくなった。そしてまだ時間があるからと思って、シャワーを浴びて、それから部屋の掃除をしたのだ。
奈津美が神経質すぎるせいなのか、朝っぱらから掃除をこなしてしまった。疲労感は二倍だ。
「あ、朝ごはん作ったから、食べたかったら食べて」
台所には、ラップでくるんだサンドイッチが置いてある。旬の好きなハムとチーズのサンドだ。ちなみに皿に置かずにラップでくるんであるのは、皿に置いても、それを旬がちゃんと洗って片付けるか分からないからだ。
「ちゃんとラップはゴミ箱に捨てるのよ? 分かった?」
そこまで考えて、ここまで徹底的に言って、奈津美は本当に旬に甘いと、自分でも思う。
でも、年上として、母性本能が働くのか、自然と世話を焼いてしまう。
「うん」
旬は返事をして、じっと口紅を塗る奈津美を見つめた。
「何? 旬」
奈津美は視線に気付いて、ちらっと一瞬旬を見てから、また鏡に集中する。
「ん~…女の人が口紅塗るところって色っぽいなぁって思って。でもナツのは他の人の三倍キレイ」
「もう…何言ってんの」
呆れたように笑いながら、照れ臭くて奈津美の頬は少しピンク色に染まった。
「あ。ナツ、今日、チューしてないよ」
旬は思い出したように言って体を起こした。
「チューしよっ」
全裸のままベッドから下りて奈津美のそばに寄ってくる。
「もう…リップ塗ってから言わないで」
「一回だけ一回だけ♪」
そう言うと旬は正面から奈津美を抱き締めて拒否される前に唇を合わせた。
一回だけ…ではあるが、時間をかけ、何度も何度も角度を変えて舌を絡めた濃厚な口付けだった。